柔道の試合を観戦している時や実際に畳の上で戦っている際、審判の「そのまま」という声に驚いた経験はないでしょうか。特に寝技の攻防が激しくなっている最中にこの声が掛かると、どのように振る舞えば良いのか迷ってしまう選手も少なくありません。このルールは試合の流れを左右する重要な要素であり、正しい理解が勝敗に直結します。
「そのまま」の宣告は、単なる中断ではなく、その瞬間の体勢を「凍結」させるための特別な措置です。この記事では、初心者から上級者までが正しくルールを運用し、実戦で焦らないためのポイントを詳しく解説していきます。まずは、「そのまま」と「待て」の主な違いについて、以下の表で確認してみましょう。
| 比較項目 | そのまま(Sonomama) | 待て(Mate) |
|---|---|---|
| 宣告される場面 | 寝技の攻防中(主に抑え込み中) | 立ち技での膠着や場外、寝技の停滞 |
| 選手の状態 | その時の体勢を完全に維持する | 一旦離れて開始線に戻る |
| 再開の合図 | よし(Yoshi) | 始め(Hajime) |
| 時計の停止 | 抑え込み時間や試合時間は停止 | 試合時間が停止 |
このように、「そのまま」は寝技の有利不利を維持したまま、特定の目的を遂行するために行われる宣告です。ここからは、その具体的な詳細や審判の意図、そして選手が取るべき行動について深掘りしていきます。
柔道におけるそのままの基本定義と審判の役割
「そのまま」は、柔道の競技規定において非常に特殊な位置づけにあるルールです。審判員がこの言葉を宣告した瞬間、畳の上の時間は物理的には進みますが、競技上の攻防は静止画のように止められなければなりません。このセクションでは、その定義と審判の具体的なアクションについて5つの視点から解説します。
そのままの言葉が持つ正確な意味と意図
柔道における「そのまま」とは、文字通り「現在の体勢を変えずに静止せよ」という審判員からの強力な指示です。この宣告が行われる最大の目的は、寝技の攻防が続いている中で、審判員が何らかの確認や処置を行う必要がある際、一方の選手に不当な有利や不利を与えないことにあります。
例えば、抑え込みが成立している最中に反則の疑いが生じた場合、一度「待て」を掛けて選手を離してしまうと、抑え込んでいた側の努力が無駄になってしまいます。これを防ぐために、体勢を固定した状態で状況を整理するために「そのまま」が利用されるのです。公平性を保つための「一時停止ボタン」のような役割を果たしています。
宣告される具体的なシチュエーション
審判が「そのまま」を掛ける典型的なケースはいくつかあります。最も多いのは、抑え込みや絞め技、関節技が継続している中で、選手が負傷した可能性がある場合や、道着の乱れが激しくなり安全な試合進行に支障をきたす場合です。また、場外際での攻防において、体勢を確認する必要がある際にも宣告されます。
さらに、審判員が副審やジュリー(審判委員)からの指示を仰ぐ必要がある際にもこのルールが適用されます。選手はどのような理由であっても、この声が聞こえた瞬間に全ての動きを止めなければなりません。相手が動こうとしても、自分は審判の指示を優先して現状を維持することが求められます。
審判がそのままを掛ける際の手順と動作
「そのまま」を宣告する際、主審はただ声を出すだけではありません。主審は対象となっている選手たちに歩み寄り、両選手の上から軽く手を置いて圧力をかけるようなジェスチャーを行います。これは物理的にも動きを止めるよう促す動作であり、選手に対して「動くな」という明確なサインとなります。
この際、主審は低い姿勢を取り、選手の状態を間近で観察します。もし医療チームの介入が必要な場合は、選手をその体勢のままにした状態で医師を呼び寄せます。審判員のこの動作は、試合の公平な管理だけでなく、選手の安全を守るための非常に責任の重いアクションであると言えます。
試合が停止している間の選手の状態と義務
「そのまま」と言われている間、選手には現在のポジションをミリ単位で維持する義務があります。力を抜いてリラックスすることは許されず、一方で有利な体勢を作ろうとこっそり位置を動かすことも厳禁です。もし審判の指示に反して体勢を意図的に変えた場合は、反則負けを含む厳しいペナルティが課される可能性があります。
この静止時間は、選手にとって肉体的にも精神的にも過酷な時間となります。抑え込んでいる側は筋力を維持し続けなければならず、抑えられている側は苦しい体勢で耐え忍ぶ必要があるからです。審判員はこの選手の苦痛を理解し、可能な限り迅速に確認作業を終えて試合を再開させるよう努めます。
そのままが解除されるよしの合図について
確認や処置が完了し、試合を再開できる状態になると、審判員は「よし」と宣告します。この「よし」という言葉が、実戦における再開のトリガーとなります。主審は選手に置いていた手を離すと同時に、鋭く発声して攻防の継続を促します。この瞬間に、止まっていた時間は再び動き出し、激しい攻防が再開されます。
選手はこの「よし」の声を聞くまでは、絶対に体勢を崩してはいけません。再開の合図と同時に、再び自分の技を完遂させるためのアクションを開始します。また、抑え込みが継続していた場合は、抑え込みタイマーも再開されるため、会場の掲示板や主審の宣告を冷静に確認する判断力も求められます。
そのままと待ての明確な違いと使い分け

「そのまま」と「待て」は、どちらも試合を中断させるコールですが、その後の展開は180度異なります。これらを混同してしまうと、勝てる試合を落としてしまうリスクがあります。ここでは、両者の違いを実戦的な視点から詳しく掘り下げていきます。
待てとの最大の違いは寝技の状態維持
「待て」が掛かった場合、選手は即座に技を解き、立ち上がって開始線まで戻る必要があります。これにより、それまでの寝技での有利な状況はリセットされ、再び立ち技の状態からスタートします。対して「そのまま」は、有利な状況を一切損なうことなく、その場に留まることが命じられるという点が決定的な違いです。
この違いを理解していない選手は、「そのまま」と言われたのに「待て」と勘違いして手を離してしまうミスを犯すことがあります。一度離してしまった体勢を元に戻すことは非常に困難であり、審判が元の状態を再現しようとしても完全には戻りません。自分の優位性を守るためにも、審判の声を聞き分ける能力は必須です。
立ち技から寝技への移行期における判断基準
審判が「待て」を選択するか「そのまま」を選択するかは、攻防の段階によって決まります。立ち技の状態で問題が発生した場合は、ほぼ確実に「待て」となります。しかし、膝が畳につき、寝技への移行が明確に始まっている、あるいは既に寝技の攻防に入っている場合には、「そのまま」が適用される確率が高まります。
特に抑え込みのカウントが始まっている状況では、特別な理由がない限り「そのまま」が優先されます。審判員は、選手が現在行っている技の「完成度」や「継続性」を瞬時に判断し、その努力を無効にしないようなコールを選択しています。選手は常に寝技の意識を高く持ち、不意の宣告にも即座に対応できる準備が必要です。
審判がそのままではなく待てを選択するケース
状況によっては、寝技の最中であっても「そのまま」ではなく「待て」が宣告されることがあります。例えば、選手が重度の負傷をしており、その場に留めておくことが生命に関わるような緊急事態、あるいは畳が血液で汚損され、即座に清掃と防疫措置が必要な場合などです。このような時は安全が最優先されます。
また、道着の紐が完全に解けてしまい、体勢を維持したままでの修正が物理的に不可能な場合も「待て」に切り替わることがあります。審判員は現場の状況を総合的に判断し、継続が可能かリセットが必要かを決めています。選手は審判の最終判断に従い、宣告された言葉に合わせて行動を切り替える柔軟性が求められます。
そのままが宣告される具体的な反則と負傷のケース
なぜ審判は試合を止めてまで「そのまま」を掛けるのでしょうか。その裏には、ルール違反の確認や選手の健康管理という重要な目的が隠されています。このセクションでは、具体的なケーススタディを通じて、その運用の実際を明らかにします。
抑え込み中に反則行為が疑われた場合の対応
寝技の攻防中、抑えられている側の選手が相手の顔を突いたり、関節を逆に取ったりするような禁止行為を行うことがあります。この時、主審は即座に試合を止める必要がありますが、抑え込んでいる側の権利を守るために「そのまま」を宣告します。これにより、反則の確認中も抑え込みの状態は法的に保護されます。
審判員は副審や映像確認(ケアシステム)を利用して反則の有無をチェックします。もし反則が認められれば、再開前にその選手に罰則が与えられます。このプロセスが「そのまま」の状態で行われることで、真面目に技をかけている選手が損をしない公平な競技環境が維持されているのです。
選手の負傷や道着の乱れが発生した際の処理
激しい寝技の展開では、偶発的なバッティングや過度な圧力により、鼻血が出たり皮膚が切れたりすることがあります。審判員が流血を確認した場合、感染症予防の観点から試合を一時停止しなければなりません。この際、傷口を処置するために「そのまま」が用いられ、医師による止血作業が行われる間、選手は静止します。
また、道着の襟や袖が乱れ、技の掛かり方に不公平が生じる場合も同様です。審判員自らが道着を整えることもあれば、選手に指示して直させることもあります。こうした細かい調整が「そのまま」の状態で行われることで、試合の質と安全性が担保されているのです。選手は治療を受けている間も、集中力を切らしてはいけません。
畳の外に出そうになった際の境界線での判断
現代の柔道ルールでは、場外での攻防は厳格に管理されていますが、寝技においては場内から始まった技が場外に及んでも継続されるのが一般的です。しかし、選手が審判員の視野から外れたり、防護マットの段差で危険が生じたりする場合、「そのまま」を掛けて位置を場内中央へ戻す処置が取られることがあります。
この「位置の移動」は非常に高度な技術を要します。主審と副審が協力し、選手の体勢を崩さないように持ち上げて水平移動させる光景は、国際大会でも時折見られます。選手としては、戻された位置が以前と少し違っても、審判の判断を尊重し、与えられた位置で全力を尽くすスポーツマンシップが試される場面でもあります。
選手が知っておくべき実戦でのそのまま対策

「そのまま」は、ただ待つだけの時間ではありません。この空白の時間をどのように過ごすかで、再開後の展開は大きく変わります。実戦で勝つためのテクニカルなアドバイスをまとめました。
そのままの間も集中力を切らさないメンタル管理
審判に「そのまま」と言われ、動きが止まった瞬間、多くの選手は緊張の糸がわずかに緩んでしまいます。しかし、これこそが落とし穴です。相手も同じ条件ですが、この時間に次の攻め手を考え、再開の「よし」に全神経を集中させている選手は、再開直後の数秒間で劇的なアドバンテージを得ることができます。
特に抑え込まれている側は、この停止時間を利用して呼吸を整え、脱出のためのシミュレーションを頭の中で繰り返すべきです。審判の手が自分に触れている感覚を意識し、その手が離れる予兆を察知するほどの高い集中力を維持してください。静寂の中でのメンタルゲームを制する者が、最終的な勝利を掴み取ります。
よし直後に有利な体勢を維持する技術
「よし」という再開の合図があった直後、体勢がわずかに崩れることがよくあります。抑え込んでいる選手は、再開の瞬間に相手が爆発的な力で逃げようとすることを予測し、あらかじめ重心を低く保ち、相手の急所をより深く制圧する準備をしておく必要があります。静止中も筋肉には適度な緊張を保ち続けてください。
一方、抑えられている選手は、再開と同時に相手が最もバランスを崩しやすい方向を見極めます。「そのまま」の間に相手の体重のかかり方を分析し、どの方向にブリッジを返せば有効かを判断します。再開後の第一歩でどちらが先に主導権を握るかが、一本を取れるか逃げられるかの分かれ目となります。
相手の不意を突く再開直後の攻防のポイント
「そのまま」からの再開は、ある意味で「新しい試合」の始まりです。相手が「よし」の合図にワンテンポ遅れることを期待し、全力のスピードで技を仕掛けます。例えば、絞め技を狙っているなら、静止中に指の形を悟られない程度に整え、再開と同時に一気に力を込めることで、相手が反応する前にタップを奪うことが可能です。
このような戦略は、卑怯なことではありません。ルールの範囲内で最大限のパフォーマンスを発揮するための知恵です。トップ選手ほど、「そのまま」の時間を自分に有利なインターバルとして活用し、身体機能をピークに持っていきます。普段の乱取り練習から、「そのまま」を想定した模擬訓練を取り入れることをお勧めします。
歴史とルールの変遷から見るそのままの重要性
柔道のルールは時代と共に変化してきましたが、「そのまま」の概念は古くから存在し、柔道のアイデンティティを支えてきました。このセクションでは、ルールの歴史的背景と現代における意義を考察します。
柔道の精神である一本重視とそのままの関係
柔道の本質は「一本」を取ることにあります。寝技における一本、すなわち抑え込み20秒(現在のルール)を完遂させるためには、攻防を途中で断ち切らないことが理想です。もし「そのまま」というルールがなければ、試合中の些細なトラブルで全ての寝技が中断され、開始線に戻されてしまうことになります。
これは、寝技を得意とする選手にとって極めて不公平な状況を生み出します。一本を目指す柔道の精神を守るために、寝技の継続性を法的に保護する「そのまま」は不可欠なルールなのです。柔道のダイナミズムを維持し、立ち技から寝技への一貫した攻防を評価する文化が、この短い宣告に凝縮されています。
国際大会における運用の統一とルールの厳格化
かつての柔道では、地域や国によって「そのまま」の運用の細かさが異なり、国際大会で混乱を招くことがありました。しかし、国際柔道連盟(IJF)によるルールの標準化が進み、現在では世界中どこで試合をしても同じ基準で「そのまま」が宣告されるようになっています。これには映像解析技術の向上も大きく寄与しています。
審判員の講習会でも、この宣告のタイミングと手順は重点的に教育されています。選手の安全と公平性を世界規模で統一することは、柔道がオリンピック競技として、またグローバルなスポーツとして発展し続けるために避けては通れない道でした。厳格なルール運用が、競技としての信頼性を高めているのです。
観客や指導者が理解しておくべきマナーと知識
「そのまま」が宣告された際、会場が静まり返る瞬間は柔道独自の美学を感じさせます。観客はこの時、大声でアドバイスを送るのを控え、再開の瞬間を見守るのがマナーです。指導者もまた、選手に対して「動くな!そのまま耐えろ!」といった的確な指示を、ルールの枠組みの中で送る必要があります。
ルールの深い理解は、柔道という武道への敬意にも繋がります。単に勝てば良いという考えではなく、定められた法の中でいかに自己を律し、相手と向き合うか。その象徴的な場面が「そのまま」という状態に表れています。この知識を共有することで、柔道コミュニティ全体のレベルアップが図られることを願っています。
柔道のそのままを正しく理解して試合を有利に進めるまとめ
柔道の「そのまま」は、試合の公平性と選手の安全を両立させるために欠かせない、非常に理にかなったルールです。寝技の攻防が一時停止されるこの短い時間は、選手にとっての試練であると同時に、戦略を再構築するための貴重なチャンスでもあります。この記事で解説したポイントを改めて整理しておきましょう。
- 「そのまま」は寝技の体勢を完全に維持するための宣告である。
- 「よし」の合図があるまで、選手はミリ単位で動きを止める義務がある。
- 「待て」との違いを明確に認識し、体勢を自分から解かないことが重要である。
- 再開直後の数秒間を制するために、静止中も集中力と筋肉の緊張を保つ。
- ルールの背景にある「一本重視」の精神を理解し、競技に敬意を払う。
実戦で「そのまま」と言われた際に落ち着いて対応できるよう、日頃の稽古からこの状況をシミュレーションしておくことが勝利への近道です。ルールを味方につけ、どのような状況でも冷静に判断できる心身を養ってください。あなたの柔道が、より深く、より強いものになることを期待しています。



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